アメリカを変えた、その「生きざま」

ベストセラーになった”Notorious RBG: The Life and Times of Ruth Bader Ginsburg””
ベストセラーになった”Notorious RBG: The Life and Times of Ruth Bader Ginsburg””

 彼女の後姿をみながら、どれだけ多くのアメリカの女性たちが生きる勇気を手にしてきただろう? どれだけ多くのマイノリティたちが彼女によって、救われただろう?

 一人の女性の「生きざま」は、間違いなくアメリカを大きく変えるきっかけを生んできた。そして今また、彼女の存在がアメリカを大きく変えようとしている。

 入退院を繰り返していたので、この日が来ることは近いとは分かっていたが、「その日」が今日来てしまった。アメリカ最高裁判所判事、最高齢のルース・ギンズバーグ女史がアメリカ現地時間・2020年9月18日、天へ召されたのだ。この場をおかりし、彼女のご冥福をお祈り申し上げたい。どうか彼女の魂が、祝福されますように。

リベラル主義が、半狂乱になる理由

 彼女が亡くなったことで、アメリカは文字通り「天と地」がひっくり返るような状況だ。ソーシャルメディアには「#RIPRGB(「ルース・B・ギンズバーグ判事よ、安らかに眠れの意)」の文字が溢れかえっており、多くの人たちが悲しみに暮れている。彼女はリベラル主義の最高判事だったので、特に前に住んでいたシアトル近郊などリベラル都市ではきっと、街中お葬式ムード&半狂乱状態だろう(ちなみに私のいるところは、中道州のバージニア)。

 特にギンズバーグ判事は、リベラル主義の「良心そのもの」とも言える存在だったので、新型コロナでただでさえ「息も絶え絶え」な中、彼女の死がリベラル社会に与えるであろうダメージは計り知れない。

 日本では最高裁判所の判事が亡くなったことが、一国を揺るがす事態になることはないかもしれない。だから上記のようなことを言われても、もしかしたらピンとこない方も多いだろう。しかしアメリカにとって「最高裁判所判事」というのは、時に「大統領」以上の存在なのだ。

大統領にダメ出しできるのは、最高裁判事のみ

 アメリカにおける最高裁判所判事は、大統領よりも長い期間、アメリカ社会に影響を与え続けることが出来る。大統領の任期は4年、長くて2期の合計8年。ところが、最高裁判事には定年がないのだ。

 アメリカはリベラル・保守に二分されているだけでなく、移民の国なので、そもそも一つのことに様々な見解が生まれ、議会で決定できないことが争点となる場合が多々ある。そんな中で「三権分立」の一角として、重要な決定権を持つ存在こそが、最高裁判所の判事なのだ。例えば、アメリカ大統領には「大統領令」を発令できる権限が与えられているが、これに「ダメ出し」できるのも、最高判事になる。もしも大統領が爆走した場合、それを止めるのが最高裁判所。つまり最高裁判所は「民主主義の最後の砦」であり、いかなる政治的偏りにも影響されてはいけないはずの場所なのである。

 ところが、ギンズバーグ判事の死去は、その最後の砦を崩してしまうかもしれない。アメリカでは11月に大統領選挙があるが、仮にトランプ大統領が再選された場合、最高裁判所の構成が史上あり得ないほど「保守に極端に傾く」ことが必須になってしまうからだ。

大統領よりも気になる、次の最高裁判事

 メディアはリベラル寄りなのでクソミソにトランプ大統領を叩きまくっているが、保守派にとってのトランプ政権は、その評価が全く違う。中でも保守派がトランプ大統領の功績をたたえる時、その最大の評価の1つとして数えるのが、最高裁判所に2人若い保守派判事を送り込んだことだ。アメリカの最高裁判事は定員が9人だが、トランプ大統領がこの任期中に送り込んだゴーサッチ氏、ブレット・カバノー氏は、ともにまだ50代。彼らがギンズバーグ判事のように80代まで生き、亡くなるまで任期を全うするならば、ざっくり見積もっても20年以上はアメリカ政治に関わることになる。

 現在の最高裁判所の構成は、リベラル4人、保守5人。ギンズバーグ判事はリベラル判事なので、リベラルの判事の椅子が一つ減ったことになる。次の最高裁判所判事を指名するのは次の大統領。トランプ大統領が再選すれば、彼が保守の判事を指名することは間違いないので、そうなるとリベラル3人、保守が6人になる。当然トランプ大統領は、若い判事を指名するだろう。となるとあと数十年間、アメリカは保守に傾いたまま突っ走る国になることは必須だ。保守に傾いたら、保守派は当然喜ぶだろう。しかし何事も度を過ぎれば、思わぬ弊害が出ることもある。だからこそ、国の大事な要としても、最高裁判所はバランスが大事なのだと思う。

 リベラル派はもちろん、今以上にバイデン氏を支持し、絶対に保守に最高裁判所の判事の椅子を渡さないよう動くだろう。しかしトランプ大統領は強い。私は中道でありたいと常に思っているので、メディアと結託し、偏向しまくりの極左的考えはまったく歓迎できないが、とはいえ保守が勝利することで、国が何十年も保守に傾いた最高裁判事に最終決断をゆだねる状況を作るのは、かなりよろしくないとも思う。それは、トランプさんがいいとか、悪いとかいう問題ではない。

 想像以上に多いだろうと推測する、アメリカの中道主義者たちが、最高裁判所の政治的偏り問題をどう捉えるかは、かなり次の選挙に影響を与えるだろう。たかが一票、されど一票。私はアメリカ国籍を選択しているので、投票権がある。常に「中道」でありたいと思っているが、残された投票日までの数十日間、「何を選択するのがこの国の最良なのかを」について、改めて真剣に考えてみたいと思う。

追伸:その後の報道で、トランプ大統領が判事指名を来週にも行い、強行に承認させるという話が出ている。民主党もこの動きは必死に阻止しようと躍起・・・・まずは大統領選挙の行方を見守るべきだろうが、いずれにしてもこの問題、一筋縄ではいないだろう(追記アップ:2020年9月20日)

 

 

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