
Contents
トランプ政権下で団結したリベラル主義者たち
アメリカでは通常、親しい関係であっても政治の話をすることは、ほとんどなかった。それが一変したのは、2016年にトランプ政権が誕生してからだろう。私が住んでいるのはリベラルな住民がほとんどを占めるシアトル。もともと「ここの住人はリベラル主義が前提」と言ってもいいような青い地域だが、それでも自分の支持政党や信じる思想について、多くを語るのは控えることの方が多かった。
そんなリベラル主義を大切にする人たちにとって、トランプ大統領は望ましい存在ではなかった。もし彼にひとつ感謝することがあるならば、それは「リベラルの人たちが公に一致団結すること」を恐れなくしてくれたことかもしれない。彼のような反発する存在がなければ、人々が堂々とリベラル主義を語り、共にデモ行進をし、世の中を変えようとするムーブメントも、ここまで大きくならなかった可能性はある。それには様々な意見もあり、不幸にも暴動まで起きてしまった。だが、シアトルで起こった大規模なBLM運動も、もともとは平和を願った人々が団結して静かな祈りを捧げるような集会だった。
現在、トランプ陣営が選挙結果を不服とする訴訟などを起こしているが、2020年11月末の現時点では、次期大統領はジョー・バイデンに決定している。シアトルは穏やかな「お祝いムード」というか、安堵感に包まれているような雰囲気だが、なかでも多くの女性たちが喜んでいるのが次期副大統領であるカマラ・ハリスの存在だ。
女性たちが涙した、カマラの勝利スピーチ
残すところわずかとなった4年に渡るトランプ政権下で、民主主義の大切さや、女性やマイノリティの地位向上のために、今までは政治にそれほど関心がなかった多くの女性たちも声を上げた。
アメリカでは男女平等が進んでいると思われているようだが、実際にはあちこちに性差別が存在している。カマラ・ハリスは、そんなアメリカの女性たちが長年に渡り抱えてきた深い痛みを癒すために、正義を貫いてきた人でもある。「自分たちを取り巻く環境を変えよう」と努力してきた女性たちにとって、カマラ・ハリスという「希望」が歓迎されるのはうなずける。
バイデン氏がハリス女史のことを、「弱い者のために闘う恐れを知らないファイターで、アメリカで最も素晴らしい公僕のひとり」だと語ったが、この言葉は彼女の本質をよく表している。カリフォルニア州の司法長官にまで上り詰め、同州で3人目の女性上院議員となった経歴もさることながら、アメリカでは彼女が弱者に常に寄り添ってきたことへの評価が高いのだ。
ハリス女史は同性婚や、節度ある銃規制を支持してきたことでも知られている。また、経済の脱炭素化を目指す「グリーン・ニュー・ディール」の発案者のひとりであるほか、貧困層の利益を考慮に入れ、環境保護のための法的措置を比較する「気候均等法案」を取りまとめた功労者としても知られている。
そんな彼女が、勝利宣言のスピーチで語った言葉を紹介しておこう。この言葉には多くの女性たちが涙したはずだ。
私は副大統領になる初めての女性かもしれません。しかし私が最後ではありません。なぜなら、今夜これを見ている少女たちが、アメリカは可能性に満ちた国だと思うからです。私たちの国は性差を問わず、すべての子供たちに明確なメッセージを送ったのです。「大志をもって夢を見ること」、「信念をもってリードすること」、「他人がやったことのない方法で自分をみることの大切さ」、そして私たちはあなた方が取るどんなステップも、讃えることを覚えておいて欲しいのです。
カマラ・ハリス勝利スピーチより
女性たちがカマラに熱狂する理由
そんなカマラ・ハリスについて、私の周囲の女性たちはどう話しているかを紹介しよう。カマラに投票した多くの女性たちは、アメリカ初の女性副大統領の誕生とこれから始まる4年間への期待を目を輝かしてコメントしていた。
<カマラは史上初の女性大統領になる/ ネイティブ・アメリカン活動家>
私はジョー・バイデンよりも、カマラ・ハリスを大統領にしたくて、民主党に投票しました。バイデン氏はアメリカの誇る「良心」であり、良き父、良き祖父ですが、かなり高齢なことには懸念があります。でも、もしバイデン氏が任期途中で引退を考えるようなことがあったとしても、後任がカマラであることを女性の1人として誇りに思います。弱者への理解や女性の地位向上という点で、カマラ・ハリスほどアメリカの女性たちの支えになる人はいません。彼女がアメリカの女性の歴史を変えてくれるでしょう。
<環境問題解決の糸口になることを期待/ 環境活動家>
カマラ・ハリスは長年に渡り、地球温暖化に対して多くの取り組みをしてきた女性。法整備が難しいエリアで、彼女が政府レベルで取り組んできたことは、とても評価されると思う。これからが楽しみです。
<マイノリティの時代に期待/ 元アメリカ陸軍中尉>
黒人女性として、これほど喜ばしい副大統領はいません。4年間、白人至上主義による人種差別を案じ、常に漠然とした不安を抱えながら生活してきました。これでようやく「息が出来る」という気持ちでいっぱいです。それは「安堵の息」です。彼女が副大統領になれば、きっと世の中はよくなるはずです。この4年で、社会は不要に分断してしまいました。それはアメリカの悲劇でもありました。弱者の気持ちが分かる新しい時代のリーダーが、再びアメリカをひとつにしてくれると確認しています。