アメリカの選挙には莫大な費用がかかる!

アメリカの国土は日本の約26倍もある。その広大な国土に50州があり、たとえばそのうちのひとつであるカリフォルニア州は日本とほぼ同じ面積だ。それほどアメリカは大きい。

 その広大なアメリカ50州の中から13の激戦州に絞って遊説するとしても、候補者とスタッフ一同の旅費、宿泊費、各地に設置する選挙事務所の運営費、ポスターや看板の制作費など選挙には莫大な費用がかかる。

 また、日本とは異なり、アメリカの選挙では候補者がTVやラジオのコマーシャル(CM)を放送できるため、CM制作費と放送費もバカにならない。CMを放送すれば知名度が上がるだけでなく、自分の政策を売り込んだり、敵対候補者を攻撃することもできるため、ほとんどの候補者はこれにもお金を掛ける。

これまでの選挙費用の比較

ここで2000年以降の選挙費用の出費を見てみよう。


2000年:ブッシュ2億7500万ドル、ゴア1億7800万ドル 
2004年:ブッシュ4億9300万ドル、ケリー4億4800万ドル
2008年:マケイン4億4300万ドル、オバマ8億9800万ドル
2012年:ロムニー5億3600万ドル、オバマ8億3900万ドル
2016年:トランプ3億6400万ドル、ヒラリー6億2100万ドル

 アメリカでは、ほどんどの大統領選は、「選挙資金額が勝った候補」が勝っている。特に2008年はオバマ候補がマケイン候補の2倍以上の資金をかけて、終盤戦でマケインの5倍の選挙CMを流したため、「オバマは約11ドルで1票を買った。大統領選はカネで買える」という批判が出た。

 しかし、前回はトランプの約2倍の費用を投じたヒラリーが負けた。これはトランプが1980年代からアメリカでは既に有名人であり、彼の「国境に壁を建てる」、「中絶反対」、「グローバリズム阻止」などの公約が草の根レベルで広がったからだ。  このような異例のケースを除き、通常の米大統領選では「資金力」を必要とするCMの威力もあなどれない。

過去の大統領選でインパクトが強かったCMは?

ブッシュ大統領時代までは、「民主党=一般庶民と労働者の党」、「共和党=金持ちと大企業の党」、というイメージがあった。しかし、2008年の大統領選以降はグローバリズムを支持するハイテク産業やソロス一族などのリベラル派大富豪たちが民主党に莫大な資金援助をするようになり、2016年以降は「民主党=グローバル派大富豪の党」、「共和党=労働者・農民・中小企業支持派の党」と、支持層が逆転した。

 前回の大統領選では、フェイスブック創始者のモスコヴィッツがトランプを阻止するために3500万ドル、ヘッジファンドの資産家のトム・ステヤーが民主党に約9000万ドルもの献金をしたことが大きな話題になったが、今回はそのステヤーが民主党候補として出馬。1月中旬の段階で1億2800万ドルもの大金をCMに費やしている

 さらに、資産508億ドルで世界長者番付11位であるマイク・ブルーンバーグは、去年の11月24日に大統領選に参入して以来、わずか50日間で2億2500万ドルをCMに費やし、視聴率が高いことで知られるスーパーボウルでも1000万ドルをかけて60秒のアンチ・トランプCMを流す予定だ。

 選挙CMは、すでに誰に投票するかを決めている人々の心を動かす可能性は低いものの、浮動有権者層にインパクトを与える効果は強いと言われている。

 以下、過去の選挙で特に大きなインパクトがあったCMを3つ紹介しよう。

1)ビル・クリントンを有名にしたCM(1992年)

 当時、まだ46才のアーカンソー知事でアメリカ全土では無名だったクリントンは、17才の時に全米の優秀な学生の代表者としてケネディ大統領に会った映像を交え、「貧しいシングルマザーの家庭で育った私のような人間も、努力して立身出世し人助けのために尽くしています。私は大統領になってアメリカン・ドリームという希望を復活させたいのです」という主旨のメッセージを流し、「ケネディの再来!」というイメージを決定づけた。そのCM映像はこちら

2)ブッシュ再選に貢献したCM(2004年)

 ボストン・ブラーミン(一般庶民の苦労を知らないボストンの上流階級)として知られ、様々な争点に関して意見を翻しているケリー民主党候補の優柔不断さを揶揄したCM。ケリー候補がウィンドサーフィンをしている映像を何度も反転させ、美しき青きドナウの軽快なワルツに乗せて、「ケリーは風が吹く度に意見を反転させています」というナレーションをつけ、金持ちのスポーツと見なされているウィンドサーフィンをしているケリーは労働者層の敵であり、一貫した信条のない風見鶏だという烙印を押した。そのCM映像はこちら

3)オバマ候補が流したアンチ・マケインのCM(2008年)

 旧式のコンピューターやレコード・プレイアー、ルービック・キューブなどの映像に「マケインは1982年からワシントンに居座っている古い人間。パソコンもEメールも使えない」というナレーションをかぶせ、マケインが時代遅れの人間だというイメージを決定づけた。そのCM映像はこちら。

2020年の選挙キャンペーン金額は?

 現在の選挙戦では、アメリカで絶大な人気を誇るリアリティ裁判番組の判事、ジャッジ・ジュディがブルーンバーグの実績、人格、リーダーシップを褒めちぎるブルーンバーグのCMが視聴率の高い番組内においてヘヴィ・ローテイションで流れている。

 トランプは激戦州での再選事務所運営費などを含むキャンペーン費用として既に1億ドル以上費やしているが、これはブルーンバーグの1カ月分のCM代より低い金額だ。ブルーンバーグは、「私が予備選で負けて民主党候補にならなかったとしても、トランプを倒すために10億ドル費やしてもいい」と話している。  

 また、シリコンバレーの重役たちが築いた「マインド・ザ・ギャップ」という政治団体は、税金控除対象となる慈善活動という名目で集めた資金で民主党のために有色人種の有権者登録などの政治活動を行い、「トランプ打倒のために1億4000ドルは投じる」と話しているため、今回の大統領選における民主党選挙資金は、2008年にオバマ候補が樹立した最高額の記録を大幅に上回る前代未聞の莫大な金額になりそうだ。

西森マリー著:
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