
尋常ではない回数の引っ越しで学んだ「アメリカ」
日本で通算15年に渡って会社を経営してきた私がアメリカに拠点を移したのは、アメリカ人の主人の転勤が理由だった。アメリカに移住してからも、当時のビジネスパートナーに会社を完全に譲るまでの2年間はビジネス拠点が日本だったので、移住した当初は「アメリカで事業を興すぞ!」という気持ちも、そんな予定もまったくなかった。
しかし、主人の仕事の関係で、アメリカ国内での引っ越しを繰り返して結果的に18州を渡り歩いた中で、「アメリカでビジネスをしたら面白いかも知れない」という考えが、次第に頭に浮かぶようになった。理由は単純だ。引っ越しをするたびに、とんでもない距離を車で移動したため、あれこれ考える時間があったからである。アメリカは本当に大きな国で、1日ぶっ通しで車を走らせても、まったく同じように見える平原や岩山が続く場所がザラにある。わずか数年のうちに9回も経験した尋常ではない引っ越しの数々は、私に何かを考える時間を与えてくれた。
しかも、その道中は衝撃を受けることの繰り返しだった。アメリカという国の片田舎で、「おかしなもの」にたくさん遭遇した。今、思い出しても失笑してしまうようなことや、今でも意味がまったく分からないものなど様々な衝撃があった。
アメリカのド田舎で出会う、不思議なもの
たとえば、偶然立ち寄った人口が100人にも満たないような南部の小さな街で、「一体、誰が食べるんだ?」というほど巨大なソーセージ(本当にブタまるごと一頭分くらいありそうな)が、いくつも自慢げにショーウインドーに並んでいる店をみたときは、そのソーセージの需要と供給について深く考え込んでしまった。あんなに小さな、滅多に外部の人間が通らないような街で、いったい「誰があのソーセージを食すのだろうか?」 それは今でも私にとって謎である。
また、ある時は、なぜか屋根も壁もすべてが紫色に塗られた、かなり大きな商店街を通り過ぎた。「年中無休のハロウィーンか?」と思われるような不気味さで、一体、誰がどんな目的でその街の景観をデザインしたのかが不思議でたまらなかった(確かサウスダコタ州の街だったような記憶がある)。
可愛いウエイトレスのお姉さんたちが、なぜか全員の髪の毛がピンク色、という店に入ってしまったこともある。しかも、彼女たちの制服は皆、真剣なコスプレ風……(ちなみにその店はアラバマ州の片田舎にあり、街にレストランは3軒しかなく、一軒はパン屋、もう一軒は昼から酔っ払いがいそうな酒場。外見的にレストランらしく見えたのは、その店しかなかった)。そういう不思議なことに巡り合うたびに、「なぜ?」というビジネス的な疑問が湧いて、頭の中がいっぱいになってしまった。
おかしなモノが売れるアメリカの不思議
「素晴らしい」と思えるものよりもはるかに多く、「こんな商売でどうして食べていけるのだろう」とか、「こんなものが、なぜ売れるのか」というものにたくさん出会ったが、引っ越し続きの環境のおかげで気づけた最大の発見は、「アメリカは巨大な国だから、地域ごとのマーケティングは商売の肝」ということだ。「アメリカが巨大」という事実は、あまりにも単純過ぎてうっかり見落としてしまいそうになるが、これを頭に入れておかないとこの国では商売にはならない。裏を返せば、アメリカが巨大であることを正しく理解していれば、日本人である私たちが想像もつかないような「思わぬところ」に、実は思わぬ商機が存在している、ということでもあるのだ。
ちなみに引っ越しの話題ついでにいうと、アメリカでは大型トラックをレンタルして自分たちだけで引っ越しをするケースがほとんど。もちろん引っ越し屋さんは存在するが、日本のような丁寧な引っ越しサービス業者はほぼ皆無なので、2度続けて家具をほぼ壊滅させられて以来、我家の引っ越しはレンタルトラックで行った。最初は「自分でトラックを借りて、大陸横断をする」ということ自体に驚いたが、この国では珍しくも何ともない、当たり前のこと。その証拠に、どんな辺鄙な場所を走っていてもレンタルトラック大手のBudget、Penske、U-Haulのトラックには、どんな辺鄙な場所を走っていてもすれ違わない日はなかった。そうしたトラックに乗っている人は「引っ越し中です」と言い回っているようなものなので、 そんな人同士が街道沿いの休憩所で出会うと、そこで自分たちのもっている荷物を販売しし合う様子を見かけたこともある。本当にいろいろなことがあったが、アメリカという国は、日本人が知らない不思議なことがまだまだ溢れている国なのだ。
今回のひとこと:汝よ、アメリカが無駄にデカイということを忘れることなかれ
*この記事は、BizSeedsより引っ越しさせた記事です