
Contents
ニューヨークの文化ともいえるベーグル
ニューヨーク名物のひとつ、ベーグル。日本でもすっかりお馴染みな「リング形状の固めのパン」の一種はもはや文化の一部だと言えるほど、ニューヨーカーのベーグルに対する想いは熱い。
ベーグルは、19世紀末にユダヤ系ポーランド人移民によってアメリカに入り、ユダヤ系移民が多かったニューヨークで特化した。麦芽と塩を使って作った生地を発酵させ、それを茹でた後にオーブンを使って焼くため、どっしりとした食感が楽しめる。
プレーン味はもちろん、セサミ(胡麻)やブルーベリーなど味のバリエーションも豊富。一般的にはベーグルは原材料にバターや牛乳、卵を使用しないので、乳製品への食規制がある人たちも食べられる。腕自慢の専門ベーカリーがひしめくニューヨークのベーグルは驚くほど味わい深く、お土産として遠方へ持ち帰る旅行者も多い。
地域で異なるベーグルの切り方
そんなニューヨークでは、ベーグルは通常リング形を真上から見るように起き、右か左端の上下の真ん中にあたる部分にナイフを当てて水平線状に切り、切った2枚をトースターに入れて焼いてから、バターやクリームチーズなどをつけて食べる。これがニューヨーク流のベーグルの切り方だ。
しかし、これがセントルイスのあるミズーリ州になると、切り方がまったく異なる。ミズーリでは、ベーグルを塊のパンをトースト用に切るときのように縦に薄くスライスするのである。

縦切りスライスは、ぶつ切り(字の通りザクザクと切る)スタイルよりも、さらにマイナーだった。昨年ひとりの男性がツイートするまで、セントルイス流を知っているアメリカ人は、セントルイス在住者以外にはいなかっただろうが、この彼の活躍によって全米中が縦切りスライスの存在を知ることになった。
ベーグルを縦に切るなんてありえない
昨年3月、ニューヨークで勤務するミズーリ出身の男性が「セントルイス風にスライスしたベーグルをオフィスに差し入れたよ」というほほえましいツイートところ、「なんだ、そのベーグルの切り方は?」、「ありえない!ひどい仕打ちだ」などとSNSでニューヨーカーたちが炎上。なんとニューヨークの上院議員も縦切りに反対するコメントを出したり、ニューヨーク市警が「これは犯罪だ」とツイートしたこと等も手伝い、SNSがおおいに盛り上がった。今振り返ると、昨年は警察もだいぶ呑気だった。
そして、「ベーグルを縦に切るなんてありえない」というNY旋風から1年経って、今年はさらに別の「縦切り」ツイートがSNSを炎上させた。
それは俗にいう「ベーグル・チップス切り」で、簡単に言えばベーグルの輪切りだ。
ユダヤ系ではないカナダ人男性のお気に入りの食べ方として紹介され、再びニューヨーカーたちが大騒ぎした。皆、それぞれ言いたいことは五万とあるだろう。しかし、元ニューヨーカーの私から言わせると、「ベーグルそのものが美味しければ、どうスライスして食べても構わない」が結論だ。
はじめてニューヨークでベーグルを食べたとき、「これまで食べていたベーグルは一体、何だったのだろう」と思ったほど、次元が異なる高レベルで感激しました。日本産のお米と、他国の米のような明らかな違いです。だからこそ炎上騒動が起きたわけですが、国が違っても日本のお国自慢とアメリカの州自慢(もしくは地域自慢)には、それほど変わりがありません。そこを理解した上でマーケティングをしていくことが大切です。ニューヨークとセントルイスの文化は異なるものなのです。
by 村山みちよ