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ロボットが淹れるエスプレッソなら濃厚接触ゼロ
外食産業へのロボティクス技術の導入がヒートアップしている。
アメリカでは、コロナ禍になる以前から投資ファンドや個人投資家が注目するホットなエリアだった「外食産業Xロボティクス」。人間に代わってロボットがレストランのキッチンに入ることに抵抗感を抱く外食業界者も多い中、長引くコロナ禍によって大きな影響を受け、考え方を変えざるを得ない企業が増えたことで、両者のマッチングが加速している。
ロボット・バリスタが単独で仕切るコーヒー・バー「CafeX」のように、ロボットの動きをしっかりと見せる造りもあれば、、テキサス州の「BRIGGO」のように、ロボットの動きは見えないロボティックス・コーヒー・カプセル(ポッド)型を展開する企業もある。
「BRIGGO」は、タブレットでエスプレッソやラテなど好みを入れて注文をすると、窓口から飲み物が出てくる仕組み。以前からオースティン空港や、ヒューストンの病院などで展開していたが、コロナ禍になってからは、感染防止に慎重になる大型施設で勤務する人々たちなどから、「第三者との濃厚接触などの心配をせずに、好きなときに本格的なコーヒーが飲める」と喜ばれるいう付加価値もついた。
「ミソ・ロボティクス」の調理ロボットは「Flippy」

シリコンバレーの通勤圏であるサンフランシスコには、「ロボットが作るグルメ・ハンバーガー」を打ち出したハイテク・レストラン「Creator」などもあり、外食産業におけるロボティクス技術の導入は早かったが、コロナ禍で目立つのは、「人間のスタッフとロボットの共存」だ。
なかでも、レストランやファストフード店のキッチンでハンバーガーを焼いたり、フレンチフライを揚げたりできるキッチン・ロボットの「Flippy」を開発した、カリフォルニア州の「ミソ・ロボティクス(Miso Robotics)」は、すでに米ハンバーガー・チェーン「CaliBurger」のフロリダ州の店舗で導入されており、さらなる「Flippy」の製造注文を入れたという。ちなみに「Flip」とは「さっと裏返す」こと。絶妙なネーミングだ。
また、1921年創業のバーガーチェーン「White Castel」も導入への最終調整をしている。古くからの顧客も多い同社VPのジェイミー・リチャードソン氏は、ロボティクスの導入に関して、「外食産業における安全基準の見直しが日々求められる中、ロボットがキッチンを担当すれば、人間のスタッフはきちんとした接客や客席の詳細な消毒などに集中できる」と話している。
投資家たちが見ている「これからの外食産業」
コロナ禍では、家族のいる自宅と店舗を往復するだけでも感染してしまうこともある。外食産業におけるロボティクス技術導入の増加は、その生産性の高さだけでなく、スタッフの安全確保や衛生管理のしやすさなども評価されているようだ。
たとえば「ミソ・ロボティクス」のキッチン・ロボットは、初期投資に約$30,000(約315万円)、その後は1ヶ月に役$1500(約16万円)のサービス料金が派生する。企業が従業員に支払う健康保険を含む福利厚生費や失業保険手当などが高額なアメリカでは、休憩や有休の必要もないロボットの導入がこの金額でできるとなると、現実的に考える経営者は多いだろう。
ミソ・ロボティクス社には、これまで「BlueBottle」などに投資して成功したベンチャーキャピタルのWavemakerも投資している。投資家たちが見ている今後の外食産業の成長の鍵は、ロボティクス技術のさらなる進化だろう。
数年前にはじめて、本格的なエスプレッソを淹れるロボットのデモ映像をみたときの印象は、「効率は良くても、なんだか味気ないなあ」でした。バリスタとの日常的なやりとりや、お店の雰囲気が好きでラテを買いにいく私のような客は、たとえ美味しくてもわざわざロボットからラテを買うことはないだろう、とも思いました。
それから数年して世界的なパンデミックが起き、長期間のロックダウンに。本格的なラテが飲みたくてもカフェやコーヒーショップには行けない……。テイクアウト料理の安全性への懸念も出てきて、「今ならばロボットから買ってもいい」と思ったとき、環境が変われば人々のニーズも変わることを実感しました。ニューノーマルに素早く慣れていく人間の適応能力の高さにも驚きました。
それを考えると、「コロナ禍が長引くほど、キッチンロボットのニーズが高まる」と鼻息を荒くするロボティクス開発者たちのようなグループと、アナログの良さや手作りを徹底して貫くグループの二極化がアフターコロナにはますます加速するのではないでしょうか。
by 村山みちよ